
どうも、nickです。
月曜の書籍レビューの時間です。
今回紹介する書籍は以下になります。
今回は三崎律日(みさきりつか)氏の奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語を紹介します。
そして、本書の中で紹介されているヤバい書物から、情報とメディアとの付き合い方について話をしようと思います。
影響力に振り回される「魔女に与える鉄槌」

この本は、魔女狩りの手引書として15世紀末から16初頭によく読まれていた本になります。
本の内容は「魔女を見つけ出す技術」や「自白させるための技術」など、現代からすれば支離滅裂とした内容となっています。
しかしこの本は、長い期間魔女狩りのためのバイブルとして多く、そして広く読まれることとなりました。
3つの要因
ではなぜこれほど長い期間読まれ、信じられていたのでしょうか?
そのの理由として三崎氏は次の3つを上げておられます。
権威からのお墨付きがあった
この「魔女に与える鉄槌」の共著者であるヤーコブ・シュプレンガ-は当時神学研究において最も権威のあるケルン大学神学部の教授でした。
今で言うところの「影響力」のある人物になります。
「影響力のある人物の書いた本」ということで信憑性が高まったのです。
活版印刷技術の出現
活版印刷技術の出現については、いわゆる「紙の印刷」がこの頃可能となったことを指します。
これにより不特定多数の人々に情報を伝えることが出来るようになりました。
これは、いい情報も悪い情報も素早く広がることにもなります。
当時の時代性の合致
「魔女に与える鉄槌」が読まれていた時代はペストに代表される原因不明の病が蔓延していた時代になります。
それら原因不明の現象は、すべて魔女のせいにしていました。
今で言うところの「ネガティブキャンペーン」になるでしょうか?
わかりやすい「敵」を作り出されていたのです。
影響力の悪用
これらのことをまとめると、「影響力のある人物による何の根拠もない言葉が多数の人の元に届き、多くの人たちを動かした」のです。
「魔女に与える鉄槌」の例は、影響力の悪用であるとnickは思います。
しかし、こういったことは現代でもよくあることではないでしょうか?
テレビのCM、選挙、はたまた詐欺など、影響力を利用したキャンペーンはそこら中にあります。
メディアに踊らされた「野球と其害毒」?

もう1つ、本書で取り上げられている奇書を紹介します。
それは「野球と其害毒」という記事です。
これは、1911年の8月から9月にかけて東京朝日新聞(現在の朝日新聞)にて連載されていたコラムで、アメリカから輸入されて、人気スポーツとしての定着しだした頃の野球を批判した内容となっております。
野球選手はチャラい?
その第1回目の記事を書いたのが、第一高等学校(現在の東京大学教養学部)の校長であった新渡戸稲造です。

そんな彼の野球批判は、おおよそ次のようなものでした。
・野球は賤技なり剛勇の気なし。
・相手を常にペテンにかけよう、計略に陥れよう、塁を盗もうなど、眼を四方八面に配り神経を鋭くしてやる遊びである。
・ゆえに米人には適するが英人やドイツ人には決して出来ない。
・英国の国技たる蹴球(ラグビー)のように鼻が曲がっても顎骨が歪んでもボールに嚙り付いているような勇剛な遊びは米人には出来ない。
・日本の野球選手は礼儀を知らない。過日の軽井沢で行われた外国人との試合において不調法な野次を飛ばして試合が中止になったという。
・海外では「スポーツマンライク」と言って非常に礼儀正しいことであるが、これを日本語に訳して「運動家らしい」と言うとなんというか 礼儀も知らぬ破落漢(ごろつき)の様に聞こえるのも日本の運動家の品性下劣から来ている。
三崎律日:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語
新渡戸稲造以外にも、当時学習院長であり旧陸軍大将も務めた乃木希典などのそうそうたる人物が野球が与える害について語っています。
なかでも、順天中学校長の松見文平の批判内容がちょっとアレな内容となっています。
・野球の問題を訴える人々は、野球に一分の利がありつつも害の方が多いという論調のようだが私は根本から野球其物を攻撃したい。
・野球は成長期にやらせると、学生の体格を目茶目茶に壊してしまう、学生の運動としては最も悪いものだ。
・野球選手が勉強ができないというのは熱中のあまり勉学を怠るためと言われているがそうではなく、掌へ強い振動を受けるためにその振動が腕から脳に伝わって脳の作用を遅鈍にする。
・また野球をやりすぎれば、右手右肩だけが発達し、指は曲がったり根元ばかりが太くなり指を併せることができなくなり、結果的には徴兵に合格しなくなってしまう。
三崎律日:奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語
このように、現代の感覚で読むとまったく論理的ではない批判となっております。
当時人気であった大学野球の選手の中には非常に粗野で、とても模範となる学生とは言えないものもいました。
そのため、批判をしたくなる気持ちもあったのだと思われます。
しかし、批判の内容はいささか強引なような気がします。
当時の学校長が「脳に悪影響」、「徴兵に合格できなくなる」などの発言をすることにはかなりの影響力が働くであろうと想像できます。
なぜそこまでして、東京朝日新聞は野球を批判する記事を掲載したのでしょうか?
教育の名の下には別の思惑が?
当時の新聞社の勢力は、東京朝日新聞と大阪朝日新聞とで1位2位を大きく争っていました。
東京朝日新聞が行った野球に対する大規模なネガキャンは、大阪朝日新聞に対抗するためにあえて批判の記事を掲載したのではないかと言われております。
そんな中、東京朝日新聞は早稲田大学の元野球選手の証言を記事にしました。
これは、元野球選手の告白として大きな反響を呼びました。
しかし、記事内容が事実と異なるとして、この元選手は別の新聞記事にて抗議をしました。
後に東京朝日新聞は謝罪文を掲載することになります。
この頃からメディアによる「偏向報道」はあったということなのでしょうか?
なお、対抗していた大阪朝日新聞は野球に好意的な記事を書いていきます。そして、現在の全国高等学校野球選手権大会(いわゆる甲子園)を主催することになります。
当時の大阪朝日新聞には次のような社説がありました。
攻防の備え整然として、一糸乱れず、腕力脚力の全運動に加うるに、作戦計画に知能を絞り、間一髪の機知を要すると共に、最も慎重なる警戒を要し、しかも加うるに協力的努力を養わしむるものは、吾人ベースボール競技をもってその最なるものと為す 。
大阪朝日新聞(1915年8月18日付)より引用
これは現在の高校野球のイメージとそっくりではないでしょうか?
著者の三崎氏は、現在の高校野球にある「さわやかな」のイメージは、この頃メディアに刷り込まれたのかもしれませんと語られております。
現代まで続く、他の競技にはない野球に対する特殊なイメージはこのとき刷り込まれたのです。
これらの事例から、いままでの論争は本当に教育のため論争だったのか?nickは疑問に思います。
何か別な思惑があったかのように思えます。
情報とメディアとの付き合い方

nickはこれらの奇書から、情報とメディアとの付き合い方は考えなければならないと思いました。
我々が気をつけなければならない点を、4つ挙げさせていただきます。
「影響力」のある人の発言が正しいとは限らない
影響力のある人物の発言が必ずしも理論的に正しいとは言えないということです。
権威や影響力は我々の認知を歪めることがあります。
これは、そういうものだと思っておいて下さい。
わかっていても正しく認知することは難しいです。
発信側の意図はなんなのか?
特にテレビや新聞などのメディアが発信する情報には、それぞれのメディアの意図が含まれることが多いです。
彼らが何故そのの情報を発信するのかを考えてみて下さい。
決してポジティブな理由だけでないはずです。
情報をブロックする事も大事
現代はこれらの奇書が発表されていた時代以上に大量の情報で溢れかえっています。
中には、自分自身にとってはどうでもいい情報や、不快な気分になる情報もあると思います。
浴びなくてもいい情報をブロックすることも大切です。
最後の判断は自分自身
物事を正しいか否かは、最後は自分で判断するしか無いです。
そのためには考える力や疑問を持つ力が必要です。
そのためには日頃から勉強することが大事になります。
今は本だけでなく、動画などでも有益な情報を多数取り込むことができます。
学習を怠らないことが、変な情報に踊らされないための防衛手段であるとnickは思います。
最後に
今回紹介した奇書以外にも、本書には良くも悪くも人々に大きな影響を与えたヤバい奇書がいくつも紹介されております。
ぜひ本を手にとって読んでいただけたらと思います。
また、本書の著者のニコニコ動画のページとYou Tubeチャンネルを載せておきます。
動画の方も面白いのでぜひ見てみて下さい。
ニコニコ動画

You Tubeチャンネル
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