
どうも、nickです。
月曜の書籍レビューの時間です。
今回紹介する書籍はこちらになります。
今回は押川剛氏の「子供を殺してください」という親たちを紹介します。
本書では、筆者が行っている精神障害者移送サービスの実態とそれを取り巻く親子関係や行政のあり方について書かれております。
筆者のところに相談に来る家族はかなり追い詰められており、中には「子供を殺してくれませんか」という相談が実際にあるそうです。
相談に来る段階で、すでに親子で殺し合いに近いトラブルを起こし、家庭内暴力の範疇を超えた問題を抱えている家族が珍しくはないそうです。
本書は家族関係に悩んでいる方、今の子育てに不安を感じている方、教育関係の職業に就いておられる方にオススメの1冊となります。
今回は本書を通して、以下について話をします。
- 実際にどんな患者がいるのか?
- 患者が医療につなげられない実態
- 患者の問題行動の根底には何があるのか?
- nick的雑感として、「手遅れになる前に」と「学校は何のための場所なのか?」について
どんな患者がいるのか?

実際にどのような患者を筆者は医療に繋げているのでしょう?
本書で紹介されているケースの1つを紹介しようと思います。
慎介(仮名)は弁護士の両親の元に生まれました。慎介は私大の附属小学校に入学し順調に成長していきました。しかし、大学の法学部に内部推薦が確実であったものの、大学進学を前に成績が低下、他大学への進学を余儀なくされました。他大学に進学した直後、統合失調症の疑いで入院。警備会社を使い、半ば強制的に入院させるもわずか3ヶ月で退院となる。退院後は女性に襲いかかったり、マンションに不法侵入するなどのトラブルを起します。慎介の精神状態は悪化していき、飼い猫を金属バットで撲殺。身の危険を感じた両親は押川氏に相談し、再度入院。しかし、父親とのキャッチボールで父の顔面めがけて全力でボールを投げるなど、精神状態は悪化する一方。退院し、更生施設へ入所するも幾度となくトラブルを繰り返し、結局逮捕となる。妄想の症状が悪化したため、出所後は精神科病院に入院。現在も療養を続ける。
そのほかにも、アルコール依存が原因で親子で殺し合いに発展、娘の奴隷として暴力を振るわれる母、ゴルフクラブで殴られる、就寝中に頭にダンベルを落とさせるなど、かなりショッキングな内容となっています。
本書ではより詳しく押川氏が請け負ったケースが紹介されております。
医療につなげない現状

ほとんどの家族は医療機関や保健所、警察などに相談にいっていながら、問題解決に至っていないのが現状です。
なぜ問題解決に至っていないのだろうか?
それは、病気として治療すべきなのか?犯罪として立件し、更生させるべきなのか?がはっきりさせられないためであると筆者は述べています。
治療のために病院に連れて行こうとしても、患者本人の同意が得られず、家族が病院に連れて行こうとしても暴れてしまうため自力での通院が難しいことが多いそうです。
そのため民間の警備会社やタクシーを利用し、時には患者を拘束して半ば強制的に病院に送ってしまうこともあるのだそうです。
その結果、患者の心の傷になったり家族が逆恨みされることもしばしば見受けられるのだそうです。
犯罪として立件するにしても、ことを荒立てたくない、子供がかわいそう、世間体が悪くなるなどといった理由から被害を取り下げるなどといったことも少なくないそうです。
対応困難な患者はブラックリスト化されている?

何とか患者を入院させることができたとしても、病院内で他の患者や医療関係者とのトラブルを起こすことも少なくありません。
筆者によると、入院中にトラブルを起こした、いわば「グレーゾーン」の患者はブラックリスト化され、医療の現場から排除されているのではないかと疑問に感じることがあるそうです。
以前、入院中にトラブルを起こした患者は、一度は転院を受け入れられても、後日「やはり受け入れられない」と手のひらを返されることが、筆者の受け持った患者のケースでは度々あるそうです。
入院や転院が決まった段階で、患者の詳細と同時に入院中の問題行動もシェアされてしまい、「うちでは扱えない」と判断を覆してしまう病院が出てきてしまっているのだと筆者は推測しています。
この推測に関しては良いとも悪いともなかなか言い難いところだと思います。
問題行動の根底にあるもの
患者たちの問題行動の根底にあるものは何なのでしょうか?
筆者は大きく2つの原因があると語っています。
- 子どものサインに気づけなかった
- 著しく悪い親子関係
サインに気づけなかった

筆者が患者の生育歴を調べていくと、患者は幼少期から何らかのサインがあったが、大人が気づけなかったパターンが多いと述べられています。
何も問題ないと思われていた子どもですが、実は周囲の動向に過敏、集団行動が苦手、実は動物を虐待していたなどの特殊な特性を持っているケースは珍しくないそうです。
あるいは思春期にいじめや不登校、受験の失敗などの大きな挫折を味わっていたなどといったことも共通点として多いそうです。
患者の過去を洗い出していくと、実は親がこういった子どものサインに気づいていなかったというケースが多いのだそうです。
子供からのサインを長く放置してしまったことが原因で精神を病んでしまい、パニックであったり、アルコールや薬物への依存につながったりしてしまったのです。
患者が大人になってから、これらの問題を家族が気づくことになり、結果スムーズに医療につなげなくなってしまっているのだと筆者は語っています。
親子関係

相談に来られた家族の親には、患者の方が子どもの時に暴力や暴言で支配していたケースがよく見られるそうです。
しかし、患者が大人になるにつれて暴力性が増し、今では親が言いなりになってしまっているケースが見受けられます。
以前は「被害者」だった子供が、今では「加害者」になっているのです。
こういったケースに限って、親に過去の行いを指摘すると自分のことは棚に上げる方が多いのだそうです。
中には、息子が急死した際に、葬儀の場で「早く死んでくれてよかった」と本音を漏らす親もした。
上記の発言の賛否はどうあれ、家族にのしかかっている負担がどれほどのものなのかが伺える発言であります。
しかし、そうした問題の根底には子供時代の親と子の関係が大きく関係しているのです。
nick的雑感
ここからはnickが本書を読んで感じたことを語っていきます。
手遅れになる前に関係機関に繋いだほうがいい

本書で紹介されているケースは、すでに手遅れになっているケースがほとんどとなっております。
そして、患者について調べると10代の頃より何らかの予兆があったと思われるケースも珍しくありません。
早い段階で大人たちがが予兆に気づき、適切な対応をとっていれば手遅れにはならなかったのではないかとnickは感じました。
また、精神疾患だけではなく、学習障害が起因しているのでは?と思うケースもあると思います。
なお、少年院に入所している未成年には、学習障害の疑いがある入所者が多いそうです。
参考)宮口幸治著:ケーキの切れない非行少年たち
※こちらの書籍は最近漫画化もされています。
こういった偏りや特性を持った子供には、それにあった指導や施設での学習が必要であります。
ですが、nickはこういった方達を繋げる場として学校は適切ではないと思います。
学校は何のための場所?

今回紹介されているようなケースは学校現場でも度々見受けられます。
その度に学校の対応はどうのこうのと批判に晒されることもあります。
ですが、本書で紹介されているようなケースが学校現場で起こった場合、正直教員では太刀打ちできないと思います。
素直に医療機関で治療や療養をしたり、更生施設で更生プログラムを受けたほうがよっぽど本人の将来のためになると思います。
普通科の高校に合格して喜んでいたり、入学を学校から拒否されて不満をあらわにしているニュースを時折見ます。
しかし、どんな子供でも普通科の学校に入学させることが、本当に子供のためになるのでしょうか?
本書のケースとして出てくる家族や親とあまり変わらないように感じます。
「警察沙汰にしないでほしい」、「精神病院に入院させるのはかわいそう」、「学校に通えないのは世間体的にマズイ」などといった親や教員のエゴが、子供の状態を悪化させているのです。
そのことに親やだけでなく、教員は気づくべきであると思います。
そして、学校は誰のためにあるのかを真剣に考えたほうが良いと思います。
生徒数を確保するという名目で、誰でも構わず入学を許可するという流れは誰のためにもならないと思います。
(この辺りは小中学校、高校、大学で考え方が変わると思います)
漫画版もあります
本書を元にした漫画が、現在連載されています。
先ほど紹介した「ケーキの切れない非行少年たち」の同じ作者による漫画化となっております。
こちらと合わせて本書を読まれれると、より理解がしやすくなります。
まとめ

今回のまとめは次のようになります。
・筆者は精神障害者移送サービスを通して、精神障害患者とその家族、治療の実態に警鐘を鳴らしている。
・患者が症状の改善に至らないのは、治療か更生かをハッキリさせるのが難しいからである
・患者の問題行動の根底には、患者本人の特性や幼少期の親からの虐待や言葉の暴力が関係していることが多い
・手遅れの状態にならないためには、子どもからのサインの早期発見と適切な環境での治療をすることである
本書で紹介されている事例は、衝撃的な内容が多いですが非常に考えさせられる内容となっています。
本記事で紹介できなかったケース事例などは子育てだけでなく、教育関係の方々にも非常に参考になると思います。
これらに関わる方には、直接本書をお読みになられることをオススメします。
電子化もされていますので、大変読みやすいです。
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