【大人のための音楽鑑賞】波の動きはワルツの動き?ワルツから読みとる「浜辺の歌」鑑賞のポイントとは?

大人のための音楽鑑賞
nick hosa
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どうも、nickです。

成田為三作曲の「浜辺の歌」解説の後編になります。

今回は「浜辺の歌」の詳しい解説をします。

前編はこちらになります。

楽曲について

「浜辺の歌」は歌人、林古渓(はやしこけい)が作詞した『はまべ』という詩に、成田為三が曲をつけた歌曲になります。

『はまべ』は、1918年(大正7年)にセノオ楽譜出版社によって『浜辺の歌』と名前を変えて出版されました。

楽譜は竹久夢二などが手がけたの表紙で出版されていた

「浜辺の歌」は当時流行していたウィンナ・ワルツのリズムを参考に作曲されました。

※ウィンナ・ワルツの例

J.シュトラウス「美しく青きドナウ

美しく青きドナウ/ヨハン・シュトラウス2世/小澤征爾/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★美しく青きドナウ/ヨハン・シュトラウス2世演奏前に恒例の新年の挨拶を団員が各国語で言うシーンも入っています。小澤征爾 指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団2002年 ニューイヤー・コンサート#クラシック #ニューイヤーコンサート #小...

作詞は作詞者の林古渓が辻堂東海岸(神奈川県藤沢市)を思い出し作詞したという説が有力となっております。

現在の辻堂東海岸

作詞について

林 古溪(はやし こけい、1875年 – 1947年 本名は竹二郎)は明治から大正、昭和にかけて活躍した歌人、作詞家、漢文学者です。

林の家系は江戸時代初期の儒学者林羅山に連なる家系で、代々文学に携わる家系でした。

林は10歳の時に父を失って以来、仏門に入って修行を行ってきました。

林は哲学館(現東洋大学)に入学すると国文学と漢文学を学びました。

特に漢詩に非凡な才を見せた林は、新体詩のグループを作って積極的な活動を始めました。

大学を卒業後は同校付属の京北中学校で国漢科教員となりました。

林は教員を務めるかたわら、音楽雑誌にほぼ毎月作曲用の詩歌を寄稿しておりました。

その中の一つが「浜辺の歌」の元となった『はまべ』という詩になります。

大正2年8月1日発行の雑誌「音楽」より引用

詳しい解説

ここからは歌い方作曲幻の3番の3つを軸に、「浜辺の歌」を詳しく解説していきます。

歌い方の解釈について

クレッシェンド、デクレッシェンドの解釈

「浜辺の歌」の特徴の1つとして、クレッシェンドとデクレッシェンドの使い方が挙げられます。

このクレッシェンドとデクレッシェンドは、一般的には波の動きを表現していると解釈されています。

ですが、本当にそうなのかnickは疑問に感じております。

nickは、ウィンナ・ワルツ特有のテンポの揺らぎを表現しているのではないかと考えます。

また、作曲者の成田為三は「浜辺の歌」のテンポについて次のように語っております。

この曲は正しく歌われていません。

みんなテンポが遅いんですよ。

もっとサラリと歌うと良いのです。

このことからも、ワルツのテンポを表現しているのではないかと推察しています。

コード進行から読み取る

このテンポの揺らぎはコード進行からも読み取ることができます。

「浜辺の歌」のコード進行

「浜辺の歌」はGmやCなどの属和音に向かってクレッシェンド主和音(F)に向かってデクレッシェンドが書かれております。

和音進行という観点から読み取ると、属和音に向かってテンポは前へ、主和音に向かってテンポは緩めるとも解釈することができます。

これらのことから、クレッシェンドとデクレッシェンドは音量ではなくテンポの揺らぎ表しているとnickは解釈します。

作曲から読み解く

ここでは作曲上の特徴から「浜辺の歌」を解説します。

なぜ3拍子ではなく6拍子なのか?

ワルツを参考に書かれた「浜辺の歌」ですが、曲は3拍子ではなく6拍子となっております。

これはなぜなのでしょうか?

nickは、3拍子のリズムが日本人には馴染みがないので6拍子としたのではないかと考えております。

またもう一つの理由として、楽譜の見やすさがあると思います。

「浜辺の歌」を3拍子に書き直した楽譜

このように3拍子の楽譜にすると、6拍子の楽譜に比べて段数が多くなり楽譜が見づらくなってしまいます。

楽譜の見やすさも考慮して、6拍子の楽譜にしたのではないかとnickは推察します。

ソ#の光るセンス

「浜辺の歌」では1カ所だけ臨時記号(小節内に書かれる#や♭)が使われています。

この「ソ」の音に#があるのとないのとでは、どのような違いがあるのでしょうか?

比較用の音源を用意しましたので聴いてみてください。

※比較音源(前半は楽譜どおり、後半は#を外した演奏)

作曲上はどちらの音でも成り立ちます。

では、なぜ成田はソに#をつけたのでしょうか?

nickはソ#の方が推進力が生まれるためであると推察します。

この先の場面は、曲が最も盛り上がる場面となっております。

曲中で唯一”フォルテ”になる場面を控えている。

ここのフォルテに、よりエネルギーを持っていくために「ソ」に#をつけたのだとnickは考えます。

幻の3番

音楽の教科書などには「浜辺の歌」は2番までしか書かれておりません。

〈1番〉
あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ しのばるる
風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も

〈2番〉
ゆうべ浜辺を もとおれば
昔の人ぞ しのばるる
寄する波よ かえす波よ
月の色も 星のかげも

ですが、「浜辺の歌」には実は幻の3番が存在するのです。

ですが、詩の内容が難解すぎるため教科書からは削除されています。

〈原詩〉
はやちたちまち 波を吹き
赤裳(あかも)のすそぞ ぬれひじし
病みし我は すべていえて
浜の真砂(まさご) まなごいまは

現代語訳したものは次のとおりです。

〈現代語訳〉
突風が急に波を吹きちらし、
着ている赤い衣服のすそは、濡れもしないことだろう。
病気になったわたしは、今、すっかり治って、
この浜辺の、波に揺られる細かい砂のように、ここにさまよい続けるのだろう。

※参考サイトはこちら

このように3番の詩の内容は中学生の歌唱題材としては不向きな内容となっております。

なので、教科書からは3番を削除したのだとnickは思います。

通して聴いてみる

最後に、「浜辺の歌」を通して聴いてみましょう。

まとめ

今回のまとめは次のとおりです。

・浜辺の歌はウィンナ・ワルツを参考に作曲された

・作詞は辻堂東海岸を思い出し作詞と言われている

・クレッシェンド、デクレッシェンドの解釈、作曲上の工夫を読み取れるかが「浜辺の歌」鑑賞と歌唱のポイントである。 

今回はnick独自の解釈に元づいた「浜辺の歌」の解説をおこないました。

一般論からは外れるかもしれませんが、楽曲分析の刺激となれば幸いです。

今後もわかりやすい解説を心がけていきたいと思います。


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( `Д´)/ジャマタ

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