【大人のための中学音楽】運命の扉を開ける鍵は3つ?元音楽教員がベートーヴェンの「運命」をわかりやすく鑑賞するコツを教えます!

ベートーヴェン
nick hosa
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どうも、nickです。

今回はベートーヴェン作曲の「運命」解説の2回目になります。

今回は「運命」という曲の以下のことについて解説します。

 

・なぜこの曲を中学校で鑑賞するのか?

・「運命」という作品の背景について

・鑑賞するために押さえるべき3つのポイント

 

1回目をご覧になっていない方は、↓からご覧下さい。

なぜこの曲を鑑賞するのか?

そもそもなぜベートーヴェンの5番を中学校で鑑賞するのでしょうか?

その理由は主に2つあります。

1つはソナタ形式を理解するため。

もう1つは主題の展開を聴き取れるようになるためです。

ソナタ形式を知るため

楽曲の構成形式にソナタ形式というものがあります。

どんな形式なのかは下の図の通りになります。

この図の詳しい説明は後ほどしますが、ソナタ形式を説明するのに「運命」という曲がわかりやすく説明できるため、中学校の教科書で採用されているのだとnickは推測しています。

主題の展開を聴き取れるように

もう一つの理由は、「運命」は旋律がどのように使い倒され展開していくのかがとてもわかりやすい曲であるからです。

これについても後ほど動画を元に説明していきます。

交響曲第5番「運命」について

詳しい楽曲の解説に行く前に、「運命」という楽曲の背景について紹介します。

初演は大失敗だった

「運命」1808年12月22日にオーストリアで初演されました。

今でこそ歴史的名曲である「運命」ですが、この初演は大失敗に終わってしまいました。

当時の記録によると、「暖房もない劇場で、少数の観客が寒さに耐えながら演奏を聴いていた」とされています。

また他の曲も演奏途中で混乱して演奏をやり直すという不手際もあり、コンサートは完全な失敗であったそうです。ちゃんと練習しろよ・・・

ですが、後の演奏で評価はすぐ高まり多くのオーケストラのレパートリーとなりました。

実はこのように、現在では名曲とされている楽曲でも、初めて演奏された時は失敗したり評価がされなかったことはよくあることでした。

「運命」はあだ名

「運命」という印象的なネーミングですが、実はベートーヴェン本人が作品につけたネーミングではありません。

交響曲における「」でつけられたネーミングのほとんどは楽譜の出版社がつけた「あだ名」であることが多いです。

「運命」の場合は、ある時ベートーヴェンの弟子が「冒頭の4つの音は何を示すのか」という質問に対し「このように運命は扉をたたく」とベートーヴェンが答えたことに由来するとされる。

有名なエピソードですが、実はこのエピソードにはあまり信憑性がないそうです。

なので、ベートーヴェンが「運命」について考えて作曲した訳ではありません。

また、他の交響曲にも様々ななあだ名がつけられています。

いくつか例を紹介します。

 

例)

ハイドン:交響曲第103番「太鼓連打」→第1楽章の最初と最後にティンパニの長い連打があることに由来

マーラー:交響曲第1番「巨人」→作曲者の愛読書であったジャン・パウルの小説「巨人」に由来

シューベルト:交響曲第7番「未完成」→通常4楽章構成の交響曲ですが、2楽章までしか作曲されていないことに由来

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番「革命」→ソビエト連邦革命20周年の年に初演されたことに由来(諸説あり)

 

このように、これらのあだ名は作曲行為とは無関係であることが多いです。

「」でつけられた副題が作曲者の意図でつけられたものかそうでないのか?

ここの解釈を間違えてしまうと楽曲を正しく理解することが難しくなってしまいますので注意して下さい。

楽曲解説

ここからは楽曲のより詳しい解説をしていきます。

ベートヴェンの「運命」を鑑賞していくために必要なポイントは3つあります。

  

・動機のしつこい使い倒し

・ソナタ形式による曲の展開

・受け継がれていく技術

  

順に説明していきます。

ポイント① 動機のしつこい使い倒し

「運命」ではかなりしつこく1つの旋律を使い倒しています。

その旋律はこちらです。

有名な「ジャジャジャジャーン」の旋律ですね。

この8分音符と2分音符のリズムですが1楽章の至るとこで出てきます。

それはもうしつこいくらい出てきますので、楽譜を目で追っていきながら曲を聴いてみましょう。

何回出てくるか数えてみてもいいですが、おすすめできないほど至る所に↑のリズムが出てきますで注意して下さい。

動画を見ると、上の画像のリズムがほとんどの場面で使われていることがわかったかと思います。

これほどまで1つの旋律を使い倒して1曲書き上げた曲はそうそうにありません。

それでも歴史に残る完成度に仕上げたベートーヴェンは、やはりただものではありません。

なお、この「ジャジャジャジャーン」のリズムは他の楽章でも使い倒されています。

1つの交響曲を通して、1つの主題を徹底的に使い倒しているのです。

詳しい解説はこの場では省きますが、興味があれば下に全曲版を添付しておきますので、他の楽章も通して聴いてみて下さい。

Coolest Lenny!, Bernstein - Beethoven Symphony No.5 バーンスタイン - ベートーベン 交響曲第5番「運命」

ただの使い回しでは?

皆さんの中には

「こんなのただの使い回しじゃないか!」

思われるかともいるかと思います。

しかし、私たちが普段聞いているポップスの「歌」なども、同じフレーズを「1番」「2番」という形で使い倒しています。

繰り返し使うということは1つの形式なのです。

今の時代に我々が聞いているポップス音楽も、元をたどって行くとベートーヴェンなどのクラシック音楽に繋がっていきます。

ベートーヴェンが主題を執拗に使い倒すという試みをしなければ、私たちが聞いているポップスは全く違ったものになっていたかもしれません。

ただの繰り返しだからといって侮ってはいけないのです。

ポイント② ソナタ形式による曲の展開

「運命」の1楽章はソナタ形式で書かれていると先ほど話しました。

この図が何を意味しているのか?

見て欲しいのは図の上に書いている、提示部展開部再現部の3カ所になります。

提示部

提示部を簡単に説明すると、「この曲の主題(旋律)はこれですよ〜」と提示する場面になります。

(楽譜を追っていく動画の0:23~1:09あたりまで)

この最初に出てくる旋律がこの先音の高さを変えていきながら展開していくことになります。

この場面を押さえておくことで、鑑賞の難易度がグッと下がります。

また、楽曲のよっては主題とは違った旋律を用いたイントロ(序奏)がつけられる曲もあります。

この場面で聴き取っていくメロディを押さえて下さい。

展開部

展開部は提示部で示された主題を、高さや調(長調や短調)を変化させる場面になります。

(楽譜を追っていく動画の3:06~4:21あたりまで)

音の高さやどんな調に変わるのかはある程度決まりがありますが、この場では割愛します。

「今まで聴いていたメロディだけど、音の高さが変わったな。」

と聴き取れたら展開部に入ったんだなと思ってください。

再現部

再現部は展開部で変化が加えられた旋律が元に戻り、提示部(曲の最初)に戻る場面になります。

(楽譜を追っていく動画の4:22~5:50あたりまで)

1度曲の最初に戻ってくることによって、元の主題と展開部で変化していった主題のそれぞれを際立たせる効果があります。

「元の主題の形と高さはこうだったよね?」という確認の場面だと思って下さい。

なお「運命」の場合は、完全に元に戻すのではなく少し変化を加えて曲の最初に戻ってきています。

あとはエンディング(終奏)に向かっていって曲が終わります。

ソナタ形式が交響曲のセオリー

このソナタ形式を理解することの何が大事なのか?

それは、「ほぼ全ての交響曲の第1楽章はソナタ形式で書かれている」という点になります。

オーケストラの曲が聴きづらい理由に、「音楽の展開が予測しづらいと感じる」点にあります。

この欠点を回避するために、作曲家たちはソナタ形式というセオリーを使い「この曲の主題はこれで、この主題が変化していきますからね」と最初に提示することで、聴衆が楽曲に入り込みやすくしているのです。

不思議なもので、確かに先の展開が予測できるとオーケストラ作品は聴きやすくなります。

オーケストラの曲はある程度の予習が必要である。

これはnickの持論ですが、予備知識があるのとないのとではクラシック音楽を鑑賞する難易度は変わってきます。

「ほぼ全ての交響曲の第1楽章はソナタ形式で書かれている」ということは基礎教養として押さえておくようにして下さい。

ポイント③ 受け継がれていく技術

本楽曲はリズムの使い倒し以外にも、主題が高さを変えて展開されているという特徴もあります。

この技術はJ.S.バッハが得意だったフーガの技術の応用になります。

バッハは同じメロディを、高さを変えて繰り返すという技を使って曲を展開させていました。(小フーガト短調)

ベートーベンも「運命」の中でバッハと同じ技を使っています。

展開部がその技術の応用に当たります。

このように過去の作曲家の”技”を後世の作曲家が継承し、さらに高めていくことでクラシック音楽は発展していきました。

ベートーヴェン
ベートーヴェン

あなたの”技”を使い、進化させます。

バッハ
バッハ

ええで

バッハの”技”は「運命」では転調という「旋律だけではなく、曲全体の高さを変える」という技に進化しています。

バッハの凄さはこういったところからも垣間見えてきますね。

旋律の展開や転調についてはバッハの小フーガの回にまとめていますので、そちらをお読み下さい。

まとめ

今回のまとめは次のようになります。

・「運命」を鑑賞するのは、ソナタ形式を理解し主題の展開を聴き取れるようなるためである

・「運命」は1808年にオーストリアで初演するも大失敗だった

・「運命」という名称は出版社がつけたあだ名であり、作曲者の意図していない場合が多い

・ソナタ形式を理解することで、オーケストラ作品の鑑賞の難易度は下がる。

・バッハが確立したフーガの技術は世代を超えて継承されていく

「運命」作曲方法は交響曲の基本となっています。

聴こえ方は違っても、曲の展開の仕方はほぼ決まっています。

今回の解説をもとにして、他の作品も鑑賞してみて下さい。

今までと違った聴こえ方になっているはずです。


nick hosa
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( `Д´)/ジャマタ

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