どうも、nickです。
ノヴェンバー・ステップスの解説、2回目になります。
今回はノヴェンバー・ステップス作曲の経緯と鑑賞のポイントを解説していきます。
以前の記事をご覧になられていない方は、下からどうぞ。
ノヴェンバー・ステップス作曲の経緯
武満にとって邦楽器の使用は1962年の映画『切腹』に使用したことから始まります。
この経験を元に現代音楽純音楽作品として、武満は琵琶と尺八のための『エクリプス』という曲を作曲しました。
この『エクリプス』の録音を、指揮者である小澤征爾がアメリカの作曲家レナード・バーンスタインに聴かせたました。
そうしたところバーンスタインが非常に気に入り、これら日本の楽器とオーケストラとの協奏曲を書いて欲しいと武満に依頼することになりました。
武満はこの新曲の作曲にあたって、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』と『遊戯』の楽譜を持って軽井沢のアトリエにこもったそうです。
※『牧神の午後への前奏曲』
※『遊戯』
これは武満が、ドビュッシーの音楽のような立体的な響きを意識して作曲したかった体そうです。
確かに、曲の空気感は似ているかもしれません。
こうしてノヴェンバー・ステップスは、ニューヨーク・フィルハーモニック125周年記念委嘱作品として作曲されました。
ノヴェンバー・ステップスは1967年11月9日、ニューヨーク・リンカーン・センターにおいて、鶴田錦史の琵琶と横山勝也の尺八によるソロ、そして小澤征爾の指揮でニューヨーク・フィルハーモニックの演奏により初演されました。
ちなみに武満は、作曲当初この曲に『ウォーター・リング』という題名を考えていました。
しかし、知人のアメリカ人作曲家に問い合わせたところ、ウォーター・リングとは「浴槽に付いた泡」という意味になってしまうことから、タイトルを変更しました。
結果として11月に初演されることもあって『ノヴェンバー・ステップス』というタイトルがつけられました。
鑑賞のポイント
ノヴェンバー・ステップス鑑賞のポイントは、次の3つになります。
- 協奏曲として聴く
- こだわった楽器の配置
- 和楽器と西洋音楽の融和
順に解説していきます。
協奏曲として聴く
協奏曲(きょうそうきょく)とは1人のソリストの演奏を、オーケストラやピアノの伴奏で支える演奏形態の曲のことを言います。
次の曲の場合は、ホルンのソロとオーケストラの伴奏になります。
ノヴェンバー・ステップスはソリストが琵琶と尺八の2名いるという、変則的な協奏曲となっています。
よって、ノヴェンバー・ステップスは1種の協奏曲として聴くといいでしょう。
協奏曲については以前、ヴィヴァルディの「四季」という曲解説で取り扱っています。
こだわった楽器の配置
ノヴェンバー・ステップスは演奏する際の楽器配置が指定されているという他の曲にはない珍しい点があります。
通常、オーケストラの楽器配置は次のようになります。
通常の配置との大きな違いは弦楽器とハープ、打楽器をステレオに配置している点になります。
このように左右に楽器を配置させることによって、音楽が立体的になる効果を狙ったのだと思われます。
楽器に配置にまでこだわって作曲された曲は、とても珍しいです。
和楽器と西洋音楽の融和
ノヴェンバー・ステップスの大きな功績は、「和」と「洋」の融和が見事に行われたことです。
なぜオーケストラの楽器たちに比べて音量の小さい尺八と琵琶が、オーケストラと対等に演奏ができるのでしょうか?
それには、和楽器の特徴的な発音とオーケストラの不協和音が関係しています。
和楽器の特徴的な発音
尺八と琵琶には、それぞれ西洋の楽器にはない特殊な奏法があります。
【尺八の奏法】
【琵琶の奏法】
尺八のムラ息や琵琶のハタキやスリバチの音のような不協和な音は、西洋音楽において「雑音」として扱われて排除されてきました。
ですが、裏を返すとこれらの音をオーケストラには出すことはできないのです。
互いに発音の違う楽器の音は、人間の耳には別々に聞こえやすくなるため、音量の違うオーケストラに埋もれることなく聴こえるのです。
オーケストラによる不協和音
また、オーケストラの方はトーンクラスターと呼ばれる特殊な不況和音を使用することで、和楽器との融和性を高めています。
黒く塗りつぶされた範囲の音を全て演奏する。
※ピアノによる演奏例
こちらはピアノによる実演です。
腕をダイナミックに使ってクラスター(音の塊)を演奏しています。
武満はノヴンバー・ステップスでは、オーケストラによるトーンクラスターを曲の中でいくつか採用しております。
和楽器の発音原理の違いとトーンクラスターを使い分けることによって、お互いが共存し合いながらも融和させることができたのです。
こうして武満は、和楽器の不協和な奏法とトーンクラスターの不協和音を使うことによって、「和」と「洋」の音を融和させることに成功しました。
これは、和楽器に精通していた武満だからこそ成し得たことであるとnickが考えます。
全曲通しておさらいしてみよう!
最後に、今までの解説を踏まえた上で全曲聴いてみましょう。
1度目に聴いた時よりも、聴きやすくなっているのではないでしょうか?
まとめ
今回のまとめは次のようになります。
・ノヴェンバー・ステップスは、ソリストが2人いる変則的な協奏曲である
・ノヴェンバー・ステップスは楽器の配置にもこだわっていることで、独特の空気感を出すことに成功している
・武満は和楽器独特の奏法やオーケストラの不協和音を巧みに利用することで和楽器と西洋音楽を融和させた
現代音楽は一見とっつきにくく感じますが、作曲の狙いや構造、聴くためのポイントがわかっていれば内容を理解して聴くことができます。
今回の記事を機に、ぜひとも他の現代音楽の曲も聴いてみてください。
より深く鑑賞できると思います。
いかがだったでしょうか?
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( `Д´)/ジャマタ
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