どうも、nickです。
チャイコフスキーの序曲「1812」の第2回目になります。
今回は、楽曲の背景解説と、その背景を表現するためにチャイコフスキーが行った3つの工夫について解説をしていきます。
前回の記事を見ていない方は、そちらからご覧になってください。
※第1回目
楽曲の解説
序曲『1812年』変ホ長調 作品49は、チャイコフスキーが1880年に作曲した演奏会用序曲になります。
タイトルの「1812年」は、当時のフランスの皇帝であったナポレオンが起こしたナポレオン戦争のうちの1つである、ロシア遠征を行った年になります。
本楽曲は、実際にあった戦争の歴史的事実を音楽で表現した楽曲になっております。
ナポレオンのロシア遠征
ナポレオン率いるフランス軍が起こしたロシア遠征は、フランス軍が一時はモスクワを制圧するなどフランス側が圧倒的有利でした。
ナポレオンは、制圧した街での物資の補給をしながらロシア国内を進軍するつもりでした。
しかしロシア軍は、撤退の際に街を焼き払いながら退却していたため、フランス軍は無補給状態での進軍を余儀なくされました。
そのためフランス軍は、荷物を捨てて身軽にしたり、乗ってきた馬を食べるなどして飢えを凌ぎながらの進軍を続けました。
6月に始まった進軍でしたが、とうとう11月になり冬となってしまいました。
フランス軍は飢えと凍傷、行軍による疲労で病気が蔓延し、飢えや寒さによって死者が相次ぎました。
これらが重なった結果フランス軍は、ロシア制圧を目の前にしてフランスへの撤退を決めました。
この敗戦が、のちにナポレオンが失脚する原因となってしまいました。
ロシア国内では、フランス軍の撤退を祝って国中の教会の鐘が鳴らされたそうです。
ナポレオンのロシア遠征の詳細は、Wikipediaからご覧ください。
演奏について
『1812年』は1882年8月20日に、建設中の救世主ハリストス大聖堂で開かれたモスクワ芸術産業博覧会が主催するコンサートで初演されました。
初演の評価は今ひとつでしたが、国内で数回の演奏が行われることでその評価を高めていきました。
1899年には当時ヨーロッパで最も優れた指揮者とも言われていた、グスタフ・マーラーの指揮によってウィーンで初演が行われました。
マーラーによる演奏を皮切りに、「1812」はロシア国内だけでなく、ヨーロッパなどの海外でも広く演奏されるようになりました。
音楽的特徴
チャイコフスキーは、この歴史的事実をどのように音楽で表現したのでしょうか?
そのための工夫は、次の3つになります。
- ロシア正教会の旋律と国歌の引用
- 教会の鐘を使う
- 大砲を使う
準場に解説していきます。
ロシア正教会の旋律と国歌の引用
楽曲の冒頭では、ロシア正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」の旋律が引用されています。
「神よ汝の民を救い」の旋律は楽曲内でたびたび引用されています。
また、「神よツァーリを護り給え」という当時のロシア帝国国歌も引用されています。
この曲は、クライマックス場面でド派手に引用されています。
また、フランス側を象徴するものとして、かつてフランスの国歌であった「ラ・マルセイエーズ」の旋律が引用されている。
楽曲での引用部分はこちらです。
フランス軍が勇ましく進軍してくる様子が伺えます。
この旋律が引用されるのは、曲の前半部分までとなっています。
これらの旋律を、曲の前半はフランス国歌が高らかに鳴り響き、後半はロシア帝国国歌が鳴り響くというようにして曲が構成されています。
この構成は、最初はフランス軍が優勢だったが最後はロシア側が優勢となっていく戦争の流れを表しているのかもしれません。
教会の鐘の利用
フランス軍がロシアから撤退したことを知ったロシアの民衆は、それを祝って町中の教会の鐘が鳴らされたそうです。
その場面を表現するため、楽曲の後半部分から鐘の音が打ち鳴らされます。
大抵はコンサート用の鐘(チューブラーベル)を使います。
ですが、中には本物の教会の鐘を鳴らすという演出をする演奏もあります。(後に動画で紹介)
大砲を使う
「1812」のクライマックス付近では、楽譜上に大砲 (cannon) の指定があります。
たいていはバスドラムで代用してしまうことがほとんどなのですが、野外での演奏会では本物の大砲を使う演奏もあります。
当然ですが、大砲は実弾ではなく空砲による発砲になっております。
しかし、それでもかなりの迫力があります。
なお、初演の際に本物の大砲を使ったかどうかについてはよく分かっていないそうです。
実際の大砲の音を使ったのは、戦争の様子やロシア軍がフランス軍を追い払うことに成功した様子を描きたくて、使用したのではないかと思われます。
両方を兼ね備えた怪演
たいていの演奏会では、会場や準備の都合で教会の鐘か大砲かどちらか一方のみを再現して演奏されることが多いです。
ですが、こちらの演奏は実際に教会の鐘を鳴らしながらも大砲もぶっ放すという、かなり攻めた演奏になっています。
ここまでの再現をチャイコフスキーが求めて作曲したのかはわかりませんが、エンターテイメントとしても見ることのできる面白い演出であるとnickは思います。
合唱が入るパターンも
これは蛇足なのですが、ロシア正教会の旋律が引用されていることから、あえて合唱を加わえて演奏パターンも存在します。
この演出も、なかなか雰囲気が出ていて面白いです。
最後に通して聴いてみよう!
それでは最後に、序曲「1812」を最初から通して聴いてみましょう!
フランス軍の容赦ない侵攻、それに耐えるロシア人、そしてロシアの勝利を喜ぶ民衆の姿が、音楽を通して見えてきたのではないでしょうか?
まとめ
今回のまとめは次のようになります。
・序曲「1812」は、ロシア遠征の歴史的事実をオーケストラ再現した楽曲である
・チャイコフスキーは、戦争の状況を音楽で再現するために、教会の鐘や大砲の音を楽曲で使用した
・演奏によっては実物の鐘を鳴らしたり、大砲を放ったりするというエンターテイメント性を追求した演奏もある
チャイコフスキーのオーケストラ作品は、重くて暗い内容のものが多いです。
しかし、今回紹介した序曲「1812」は演奏時間が比較的短く、意図している内容がハッキリとわかりやすいので、鑑賞しやすい楽曲であると思います。
教会の鐘や大砲の有無などは、演奏によってさまざまです。
色々な演奏を聴いて、聴き比べをすると面白いと思います。
みなさん、ぜひ試してみてください。
いかがだったでしょうか?
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( `Д´)/ジャマタ
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