どうも、nickです。
「展覧会の絵」の解説3回目になります。
今回はピアノ版とオーケストラ版を比較し、ラヴェルがどのように「展覧会の絵」の世界観を独自に拡大していったのかを解説していきます。
解説を見ることで、編曲の面白さや奥深さ、作曲者が何を考えて曲を書いているのかが分かるようになります。
以前の記事を見ていない方は、そちらからご覧ください。
※1回目
※2回目
ピアノ版と比較してみる
今回はこちらのピアノ版の動画と、以前の投稿で使用したオーケストラ版の動画を使い、両者の比較を行っていきます。
プロムナード
上がピアノ版、下がオーケストラ版になります。
有名なイントロはトランペットによって演奏されます。
オーケストラ版に比べて、ピアノ版の方がテンポが速いのは、ピアノは長く音を保持することが不得手であるためであると思われます。
また、プロムナードは何度か出てきますが、毎回メロディーを演奏する楽器が変わっていきます。
小人(グノーム)+プロムナード2
中・低音域の楽器をメインに使い、かつピアノでは演奏ができない、弦楽器のグリッサンドを用いることで、曲が持つおどろおどろしい雰囲気がオーケストラではより深く表現されています。
小人の後には、プロムナードが挿入されていました。
最初のプロムナードはトランペットがメロディでしたが、こちらはホルンがメロディーとなっています。
オーケストラ版では、イントロのプロムナードとは使われている楽器を変えることで、ピアノ版との差を生み出しています。
古城+プロムナード3
古城では、オーケストラでは使用が珍しいアルトサックスを使うことで、独特の雰囲気を出すことに成功しています。
また、曲の中間部では演奏する楽器を増やすことで、ピアノでは表現しきれない音量や音圧の差を生み出しております。
古城の後にも、プロムナードが挿入されています。
こちらはトランペットから始まり、低音楽器が後から追いかけるような感じになっています。
ピアノ版の演奏も、1つ前のプロムナードに比べて荒々しいプロムナードになっており、それに合わせた楽器で演奏されています。
このことから、同じプロムナードでも、楽譜の内容で演奏する楽器をうまく変えていることがわかります。
チュイルリーの庭
子供たちが庭で遊んでいる様子が表現されたこの曲では、金管楽器が一切使用されていません。
そして、フルートやオーボエなどの木管楽器や高音の弦楽器を使うことで、軽やかさやおどけた雰囲気を出しています。
ヴィドロ+プロムナード4
先ほどの曲とは打って変わり、低音の金管楽器や弦楽器が演奏のメインとなっています。
この曲のメロディーは、これもオーケストラでは使用が珍しいユーフォニアムが使われています。
また、1つ1つの音を長く演奏することで、より曲に重苦しさを加えています。
ヴィドロの後にはプロムナードが挿入されます。
前回のプロムナードと同じように、高音の木管楽器や弦楽器をメインに使い、ヴィドロとの音色の対比がなされています。
中間が少しヴィドロの雰囲気が出ているのは、鑑賞者の心情がまだヴィドロに残っていることを表しているのではないかと思われます。
これはラヴェル独自の解釈に基づくアレンジだと思われます。
卵のからをつけたヒナの踊り
この曲では、木管楽器の高音やヴァイオリンのピチカート(弦を指で弾く演奏法)を使うことで、踊りの軽快さが表現されています。
演奏する楽器が違うと、踊りの雰囲気も変わっていたことでしょう。
楽器の特徴や奏法を巧みに利用した編曲になっていると思います。
サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
この曲では前半のメロディーは低音域の楽器、後半のメロディーをミュート(弱音器)をつけたトランペットで演奏することによって、両メロディーの対比がうまく行われています。
ピアノ版では音の高さのみで、両メロディーを差別化しておりますが、オーケストラ版では音色の違いを利用してより強い差別化がなされています。
なお、ピアノ版でのみ曲間にプロムナードが挿入されています。
なぜこの曲をラヴェルは削除してアレンジしたのかはよくわかりませんでした・・・
リモージュの市場
この曲では、低音域の楽器を使わないことで、市場の賑やかな様子を表現することに成功しています。
低音域の楽器を使わないことは、次の曲との対比にも繋がっております。
カタコンベ
先ほどの曲とは違い、この曲では低音音域の金管楽器をメインに使うことで、地下墓地独特の重苦しさがオーケストラでは表現されています。
また、急激な強弱変化は石造の墓地の音の反響を表現しており、この表現は管楽器ならではの表現方法になります。
この表現も、ピアノでは難しい表現になるためオーケストラによって補完された形となっています。
死せる言葉による死者への呼びかけ
ピアノ版で曲の最初から続く右手のオクターブのトリルが、オーケストラ版では弦楽器の同音のトリルに置き換わっています。
同音のトリルはピアノでは難しく、オクターブのトリルはオーケストラの楽器では難しいため、このように変更したのだと思われます。
鶏の足の上に建つ小屋 (バーバ・ヤガー)
ここでは金管楽器や低音域の楽器、打楽器をふんだんに使うことで、曲で表現されている荒々しさやグロテスクさが巧みに表現されています。
ピアノ版も打楽器的な演奏となっており、その表現がオーケストラ版では拡大された形となっています。
キエフの大門
この曲では、今までの曲ではほぼ行われることがなかった、オーケストラの全楽器を使った演奏が行われています。
このことによって、キエフの大門の壮大さを表現したかったのだと思われます。
おそらく、最後の曲のスケール感が大きくなるように、計画的に他の曲では使用する楽器を制限していたのではないかとnickは推測します。
ラヴェル・・・やはり天才か😱
最後に通して聴いてみよう!
最後に、オーケストラ版の「展覧会の絵」を通して聴いてみましょう。
ピアノ版と聴き比べた後では、オーケストラ版の印象はかなり違って聴こえるのではないでしょうか?
まとめ
今回のまとめは次のようになります。
・「展覧会の絵」ではサックスやユーフォニアムなど、オーケストラでの使用が珍しい楽器が使われている
・ピアノでは難しい表現を、オーケストラで行うことで曲の雰囲気を拡大、補完している
・音の高さの対比だけでなく、使う楽器の音色の対比もされている
・ラヴェルは、最後の曲が壮大になるように計画し、他の曲は使う楽器を制限して編曲したと推測される
このようにピアノ版とオーケストラ版を比較して聴いていくと、ラヴェルはかなり意図的に曲ごとに何の楽器を使っているのかがよくわかります。
ラヴェルがなぜこのようにアレンジしたのか?を考えることが、「展覧会の絵」の鑑賞で大切なことであるとnickは思います。
みなさんも、様々な可能性を考えてみてはいかがでしょうか?
※他の音楽鑑賞の解説はこちらからどうぞ
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