どうも、nickです。
ラヴェルの「ボレロ」解説の2回目になります。
今回は「ボレロ」という曲について深掘りしていきます。
「ボレロ」鑑賞のポイントは
・1種類のリズムと2つのメロディしか使っていない
・曲の展開と楽器の使い方の変化
になります。
今回はこの2点をわかりやすく解説していきます。
またボレロの1回目を見ていない方は、↓からご覧んください。
「ボレロ」という曲について
「ボレロ」は、バレエ演者のイダ・ルビンシュタインの依頼によって作曲されました。
元バレエ・リュスの一員でもあったイダ
この曲にはあらすじがあり、それは次のようになっております。
セビリアのとある酒場。一人の踊り子が、舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。
「ボレロ」は1928年にパリ・オペラ座(ガルニエ宮)にて初めて演奏されました。
ラヴェル本人は「ボレロ」がオーケストラのレパートリーとして定着することを期待していなかったそうです。
しかし、この初演は大成功し「ボレロ」は爆発的にヒットしました。
そして現在でも演奏されるようになりました。
鑑賞のポイント
ボレロ鑑賞におけるポイントは以下の2つがあります。
① 1種類のリズムと2つのメロディしか使っていない
② 曲の展開と楽器の使い方の変化
順に解説していきます。
1種類のリズムと2つのメロディしか使っていない
今回紹介する「ボレロ」という曲は、1種類のリズムと2つのメロディのみで曲が構成されています。
リズム
ボレロで使用されているリズムは次の通りです。
このリズムをスネアドラム(小太鼓)が15分近くひたすら演奏し続けます。
話によると、このリズムを延々と演奏し続けることはかなりきついそうです。
なぜかというと、途中で訳がわからなくなるそうです。
ゲシュタルト崩壊の一種なのでしょうか?
メロディ
2種類のメロディのうち、1つ目のメロディが次の楽譜になります。
こちらのメロディをAとします。
2つ目のメロディは次の通りで、こちらのメロディをBとします。
「ボレロ」素材となるリズムとメロディはこれしか使っていないため、大変ミニマルな曲となっています。
この二つのメロディを交互に使い分けるだけでなく、演奏する楽器の組み合わせを変えていくことで無限大に音色を作り上げていっています。
これだけで15分近く曲を持たせられることがすごいです。
nickにはとてもできない芸当です。
ラヴェルが高い評価を得ているのは、この楽器の使い方が巧みである点があげられます。
曲の展開と楽器の使い方
鑑賞する上でのもう一つのポイントは曲の展開と楽器の使い方の変化になります。
曲の展開
曲のあらすじは次の通りでした。
セビリアのとある酒場。一人の踊り子が、舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。
このあらすじを踏まえた上で、メロディを受け持つ楽器がどのように変わっていくのか見ていきます。
この曲のメロディを受け持つパートがどのように変わっていくのかを下にまとめました。
また先ほどつけたA、Bのメロディのどちらを演奏しているのかを( )内に書いておきました。
- フルート(A)
- クラリネット(A)
- ファゴット(B)
- Esクラリネット(B)
- オーボエダモーレ(A)
- フルート、トランペット(弱音器付き)(A)
- テナーサクソフォーン(B)
- ソプラノサクソフォーン(B)
- ピッコロ、ホルン、チェレスタ(A)
- オーボエ、オーボエダモーレ、コーラングレ、クラリネット(A)
- トロンボーン(B)
- フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、テナーサクソフォーン(B)
- フルート、ピッコロ、オーボエ、クラリネット、第1ヴァイオリン(A)
- フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、テナーサクソフォーン、第1・第2ヴァイオリン(A)
- フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、トランペット、第1・第2ヴァイオリン(B)
- フルート、ピッコロ、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、トロンボーン、ソプラノサクソフォーン、第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ(B)
- フルート、ピッコロ、トランペット、サクソフォーン、第1ヴァイオリン(A)
- フルート、ピッコロ、トランペット、トロンボーン、サクソフォーン、第1ヴァイオリン(B)
このように見ると、だんだん演奏する楽器が増えていっているのがわかります。
リズムのパートも、同じように曲が進むにつれて担当する楽器が増えていっています。
あらすじにある、「次第に踊りが大きくなっていき、最後は全員で踊り出す」という筋書きを、演奏する楽器を増やしていくことで表現しています。
1種類のリズムと2種類のメロディーしかないことから、一気に盛り上がるのではなく、少しづつじわじわと盛り上がっていく様がわかります。
使っている素材が少ないのには、このような意図があるのだと思います。
楽器の使い方
ラヴェルオーケストラ作品は「オーケストレーションの天才」、「管弦楽の魔術師」、「スイスの時計職人」と呼ばれるほど卓越した管弦楽法と精緻な書法が特徴であります。
ラヴェルはムソルグスキーの「展覧会の絵」をオーケストラ編曲したことでも有名です。
もともとピアノ独奏の曲であった「展覧会の絵」を指揮者のクーセヴィツキーの依頼でオーケストラ用に編曲しました。
なお、オーケストラ版の「展覧会の絵」の初演は大成功だったようで、「ムソルグスキーのピアノ曲から新作を作った」ともいわれました。
ラヴェルの「展覧会の絵」の編曲が成功したことによって、現代で編曲が当たり前のように行われるようになりました。
なお、以前からラヴェルは自作のピアノ曲をオーケストラに編曲し直して発表することをよく行っておりました。
亡き王女のためのパヴァーヌが最も有名でしょうか?
こういった経験から、ラヴェルはオーケストラで使われている楽器の使い方が巧かったのだと思います。
特殊な和音の重ね方
曲の中間部には次のような場面があります。
少し変わった響きに聴こえるのではないかと思います。
ここの場面ではセオリーとは違うハモらせ方をしています。
通常ならば次のようにハモらせるのが一般的です。
ですが、この場面ではラヴェルは次のようにハモらせました。
この響きはパイプオルガンでよく使用されている並行音程によるハモらせ方になります。
オーケストラでこのような並行音程によるハモらせ方は非常に珍しいことです。
このようなアイディアをオーケストラ作品に持ち込めるところも、ラヴェルが非凡である理由です。
パイプオルガンでの実例は↓からご覧ください。
参考動画、音源
以上のポイントを踏まえて、「ボレロ」を聴いてみようとおもいます。
いくつか参考となる音源を用意しましたので、興味のあるもので聴いてみて下さい。
G.ドゥダメル指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏
オーケストラによる演奏。オーソドックスな演奏だが、メロディーの演奏方法にやや含みを持たせていて面白い。
シルヴィ・ギエムの舞踏
パリ・オペラ座バレエ団の伝説的なダンサー、シルヴィ・ギエムが踊る「ボレロ」の映像。
踊りには詳しくありませんが、関節の可動域がおかしいのは素人が見てもわかるパフォーマンスになっています。
振り付けが怪しい。だがそれがいい。
ラヴェル本人による指揮
「ボレロ」の音源にはラヴェル本人が指揮をした演奏の録音が残っております。
レコードからの採取なので音質に古めかしさを感じますが、貴重な資料です。
ボレロの演奏だけでなく、本人作曲のソナチネや鏡といったピアノ曲をラヴェル自身が演奏し、録音したCDとなっています。
Apple Musicなどのストリーミングサービスでも聴くことができますので、ぜひお聴きになって下さい。
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今回のまとめは次のようになります。
・ラヴェル自身は「ボレロ」という曲にあまり期待はしていなかったが、思いがけず大ヒットとなった
・「ボレロ」は1種類のリズムと2種類のメロディーのみで構成された曲である
・演奏する楽器をだんだん増やしていくことで、踊りが盛り上がっていく様子を描写している
・ラヴェル本人の指揮による演奏の録音が実在する
ラヴェル本人がこの曲にあまり期待を寄せていなかったことは意外ですね。
世の中、何が評価されるかは解らないということなのでしょうか?
次回はヴェルディの「アイーダ」を紹介する予定です。
※他の音楽鑑賞の解説はこちらからどうぞ
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