どうも、nickです。
大人のための音楽鑑賞、ファリャの「恋は魔術師」の回です。
後編となる今回は「火祭りの踊り」についてわかりやすく解説していきます。
※前編はこちら
恋は魔術師について
『恋は魔術師』(El amor brujo)は、スペインの作曲家 マヌエル・デ・ファリャが、マルティネス・シエーラの台本を元に作曲したバレエ音楽になります。
『恋は魔術師』同じくバレエ音楽の『三角帽子』とともに、ファリャのもっとも有名な作品の1つです。
中でも曲中の「火祭りの踊り」などは特に有名な曲です。
『恋は魔術師』はある舞踊家の依嘱により、歌入りの音楽劇『ヒタネリア』として1914年から1915年にかけて作曲されました。
この時点ではフルオーケストラではなく、室内オーケストラ(8重奏)として作曲されていたそうです。
なので、この曲がアンサンブルや小編成吹奏楽で映えるのだと思います。
1915年4月15日、『恋は魔術師』はスペインのマドリッドで初演されました。
しかしながら、この初演は失敗に終わったそうです。
そのためファリャは楽譜の改訂を行い、現在の形である独唱とピアノを含む2管編成オーケストラに書き直しました。
改訂以後は作品が高く評価され、現在でもオーケストラで演奏されるレパートリーの1つとして定着しました。
あらすじ
「恋は魔術師」のあらすじは次のとおりです。
ジプシー娘のカンデーラとその恋人のカルメロは、カンデーラの元夫の亡霊に悩まされている。 カンデーラは友人のジプシー娘達に協力してもらい、除霊の儀式(火祭りの踊り)を執り行うこととなる。 時は真夜中の12時、焚き火を囲んで娘達が舞いを捧げると、女好きだった元夫の亡霊がすぐに現れ、彼女達と一緒に踊り始めた。 娘達のダンスは徐々にスピードを増していき、勢いが最高潮に達すると、亡霊は焚き火の中に吸い込まれ、そのまま永遠に消滅してしまった。元夫の亡霊から解放されたカンデーラは、新たな恋人カルメロとめでたく結ばれた。
※参考:映像で見る「恋は魔術師」
火祭りの踊りについて
今回解説する火祭りの踊りは、元夫の亡霊を追い払うための悪魔祓いの儀式として描かれています。
これは、バレンシアの火祭りという祭りがモチーフになっているそうです。
なぜ悪魔祓いの儀式で焚き火なのでしょうか?
それには火と人との歴史的な背景があるとnickは考えております。
EX:火と人との関係
火には物事を浄化する効果があると古来より言われており、火と人類は切っても切れない関係にあるとnickは考えます。
ここでは参考としていくつか例を提示します。
ゾロアスター教における光(火)の信仰
古代ペルシア発祥の宗教であるゾロアスター教では光(善)の象徴としての「火」を尊ぶ風習があります。
ゾロアスター教の信者は火に向かって礼拝をするそうです。
火に向かって祈りを捧げたり踊ったりする風習は、ゾロアスター教からきているのではないかとnickは考察しております。
キリスト教圏で行われた魔女狩りやワルプルギスの夜
ヨーロッパの一部では焚火を点けて聖ヴァルプルギスのイブを祝い、悪霊や魔女を退散させる風習であるワルプルギスの夜が続いています。
キリスト教においては「死者の復活」の教義があるため、復活の際に元の肉体が必要であることから伝統的に火葬に否定的であります。
なので、復活されては困る悪魔や魔女と認定された人物を火炙りにするなどして、肉体を現世に残さない対策がなされておりました。
悪霊を焚き火で退散させるという発想は、火祭りの踊りと同じであると考えます。
仏教における火葬
火葬は仏教由来の文化として日本を含めたアジアで広く行われてきました。
仏教の思想では魂は肉体に宿るのではなく、死後は新しい肉体へ輪廻転生するものと考えられています。
そのため、キリスト教の教義とは真逆で輪廻転生を促すために火葬が習慣として根付いております。
また公衆衛生上の利点から、仏教信仰がなくとも火葬を選択する国や地域もあります。
鑑賞のポイント
「火祭りの踊り」を鑑賞するポイントは次の3つになります。
- 炎の表現
- フラメンコ特有の節回し
- 踊りのリズム
炎の表現
「火祭りの踊り」では燃え盛る炎を弦楽器のトリルと音量の強弱で表現されております。
これらの炎のモチーフは、曲を通して何度も現れます。
フラメンコ特有の節回し
「火祭りの踊り」ではフラメンコ特有の節回しがよく使われております。
例として序盤のオーボエの旋律を見てみましょう。
このフラメンコ特有の節回しを模した旋律は、「恋は魔術師」全体を通してよく使われております。
踊りのリズム
「火祭りの踊り」ではフラメンコの足踏みを思わせるリズムが多様されております。
また、低音パートは5度音程で堆積された和音を使用しており、より踊りの力強さを感じられる効果を得られております。
5度音程で堆積された和音は従来の西洋音楽ではあまり使われない手法のため、独特の雰囲気を演出することに一役買っています。
その他の場面
ここからは「恋は魔術師」の「火祭りの踊り」以外の曲について紹介していきます。
悩ましい愛の歌
この場面はカンデーラが元夫の亡霊と新しい恋人との関係に悩んでいる心情が歌われている場面になります。
バレエ音楽に歌が入ることも珍しいのですが、この歌の歌詞がスペイン語であることも1つの特徴であります。
このスペイン語独特の節回しは、「火祭りの踊り」など曲の随所で様々な楽器によって模倣されています。
恐怖の踊り
この場面はカンデーラが亡くなった夫に追いかけ回される場面になります。
カンデーラと元夫の亡霊のやり取りを、トランペットとオーボエによる旋律の追いかけっこによって巧みに表現されております。
改めて「火祭りの踊り」を聴いてみる
最後に、「火祭りの踊り」を改めて聴き直してみましょう。
今までよりもわかりやすくなっているのではないでしょうか?
まとめ
今回のまとめは次のとおりです。
・「火祭りの踊り」はバレンシアの火祭りがモチーフとなっている
・トリルや音の強弱で炎のゆらめきを表現している
・随所にフラメンコの節回しやステップが使われている
「火祭りの踊り」は映像で見ることができるので、とても鑑賞しやすいクラシック音楽作品であると思います。
「火祭りの踊り」以外の場面もいい曲ばかりですので、これを機に全曲聴いていただくことをお勧めします。
また、アンサンブルなどの小編成で「火祭りの踊り」を演奏される方も、この記事を参考にコンクールや演奏会に臨んでみてください。
EX:小編成吹奏楽用に編曲してみた
ここでは以前、部活動の演奏会で演奏するために編曲した「火祭りの踊り」の楽譜を紹介させていただきます。
こちらは繰り返しをカットしたショートバージョンとなっております。
13名で演奏可能ですので、人数が少なくて困っているバンドにオススメです。
いかがだったでしょうか?
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( `Д´)/ジャマタ
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